岡山地方裁判所 昭和25年(ヨ)16号 決定
債権者 坪井利之 外一名
債務者 備前護謨株式会社
一、主 文
本件仮処分申請は之を却下する。
申請費用は債務者の負担とする。
二、事 実
債権者等代理人は、「本案判決確定に至る迄一、債務者が昭和二十五年一月二十四日債権者等に予告して行つた解雇の効力を仮に停止する。二、債務者は債権者等が就業を求めたときは就業させなければならない」との命令を求め、其の理由は、
(一) 債権者等は何れも債務者に雇われ其の岡山工場に勤務する従業員であると共に従業員の一部よりなる備前護謨労働組合の組合員(Aは組合長)であり、債務者は大阪市に本店を有し、岡山市に工場を有する護謨製品の製造販売を目的とする株式会社である。
(二) ところが債権者Aが昭和二十五年一月二十四日右工場に赴いて作業せんとしたところ債務者より解雇の通告を受け債権者Bも同様解雇通告を受けるに至つた。然し乍ら債務者は前記組合と昭和二十四年六月二十六日協議の結果組合員を解雇するには組合と協議の上行う旨決定して居り本件解雇は右協定を無視して組合との協議なく行つたものであるから無効なものである。
(三) 尚債務者の本件解雇理由は債権者等が何れも病身で欠勤勝であり債務者会社就業規則第三十五条第一、二号に該当するものとして居るが其の真の理由は他に在ることが窺われる。即ち、
1.債務者は債権者が昭和二十三年九月中労働組合を設立したところ之を厭い、重役植田清武は組合長となつた債権者Aを呼寄せて「組合運動をしないとの約束で入社したのに拘わらず組合運動をするとはけしからぬ。止めて貰わねばならぬ。」と称して組合結成を妨害し更に組合員aを解雇しb外二名の職場の配置転換を行つた。右処分は労政事務所の知るところとなり不当労働行為であるとして注意された結果取消されたものであるが、組合からの提訴により岡山県地方労働委員会からも警告を発せられた次第である。
2.債務者は更に昭和二十四年一月九日社長命名に基く「尊徳会」と称する親睦団体を作り、重役島村克己が其の初代会長となり、かくして組合の切崩しを策した結果組合は組合員の大部分を右会に吸収され現在僅かに七名を残すのみとなつた。
3.引続き同年六月中組合員c、dを解雇したので、組合は其の不当を責めたところ債務者も非を認めて右処分を撤回した。
4.組合員eは昭和二十五年一月二十五日債務者会社重役平田譲四郎より呼ばれたので、翌二十六日同人宅を訪れたところ同人より「組合より手を引き尊徳会に入つた方が為になる。」と告げられ、又組合員fも前記植田重役より約十回に亘つて、「組合を引いた方がいい。」と勧められて居る。
之等の事実を綜合すると本件解雇は直接には組合が昭和二十五年一月二十三日債務者会社を相手として賃銀に関する協定の遵守を要する仮処分の訴訟を岡山地方裁判所に提起したことを知つた債務者会社の報復策であると認められ組合に対する圧迫手段の一と断ずる外はない。
四 以上の理由により債権者等は本件解雇の無効確認訴訟の提起を準備して居るが本案判決の確定を俟つことは、其の日暮しの債権者等に対しては生活上の支障さえ生じ、甚大な損害を受けるので本件仮処分申請に至つたものである。
と謂うにある。(疎明省略)
三、理 由
先ず本件仮処分の管轄に付き按ずるに疏第五号証及び被審人植田清武の供述を綜合すれば債務者会社岡山工場は会社営業種目の大部を行つて居り、本件に於て問題となつて居る協定も債権者等岡山工場従業員の一部を以て組織する備前護謨労働組合と債務者との間に岡山工場に於いて結ばれたことが窺われるので、本件解雇処分の当否は岡山工場の業務に関連があり民事訴訟法第九条により同工場所在地の当裁判所に管轄がある。
そこで以下争点たる本件解雇に付いての協議の有無及び本件解雇が不当労働行為であるか否かに付いて考察することとする。
疎明資料を綜合すれば申請人の謂う如く債務者と組合間に昭和二十四年六月二十六日「爾後債務者が組合員である従業員を解雇する場合は予め組合と協議決定の上でなければ解雇出来ない。」旨の協定をしたこと、債務者会社に於いて組合の結成存続を嫌厭して居ると認められる言動処分が従来屡々行われて居ることが認められる。
しかし乍ら本件解雇に付いては債権者Aは昭和二十四年九月十七日以来乾性肋膜炎等により同Bは同月八日以来肺結核により欠勤して居つたところ昭和二十五年一月下旬債務者会社取締役植田清武より債権者A(労働組合長)に対し、同人及びB等を解雇しようと考えるから二、三日考えて呉れ、と申入れ債権者Aは即日債権者Bに対して其の旨伝達し、二、三日後債権者Aは前記植田に解雇反対の意思表示をしたのに対し債務者会社は債権者等を即日解雇したこと、当時組合は長以下組合員数名に過ぎなかつたことが認められるので、以上の様な事情の下にあつては本件解雇が債権者等の謂う如く解雇に付き協議を経て居ないと謂うことはできないし、又本件解雇が不当労働行為に該当することについてはその疎明がないので、結局本件仮処分の申請は理由がないものであるから之を却下し、申請費用に付いては民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 中島貢 菅納新太郎 辻川利正)